ブドウは一旦圧搾場に到着すると、下ろされる前に原産地呼称統制委員会による計量審査を受けます。ひとつの畑に対し年毎に決められる生産量の限度を超えていないかを確かめるためです。この重量コントロールの他、運搬されてきたブドウからサンプルをひとつ採り、ブドウの熟成度や衛生状態に関するいくつかのパラメーターを分析します。
ブドウは通常、受け入れ口のホッパーに投入されます。その底には連続式の螺旋型の装置があって、これがブドウを最初の作業ブロックである破砕機、もしくは除梗破砕機まで運搬します。破砕の目的は圧力をかけることによってモストの抽出作業を楽にすることです。破砕によってブドウの皮が破れ、基本的に果肉が持つモストのかなりの部分が出てきます。
除梗、つまりブドウから果梗を外すことは選択肢のある作業で、破砕の前に完全に行っても、部分的に行ってもかまいません。果梗が破砕されると、ワインの品質にとってはあまり望ましくない草のような成分やタンニンが出てきますが、房の細い木質部が破砕されずにいくらか残っていると、圧搾時やドレイン時にモストを出やすくしてくれ、抽出効率を上げることになるため、技術的には利点があるといえます。
破砕、時には除梗も含めた作業が終わると、できたペースト状のものは流れ出てきたモストとともに搾汁システムに送られます。ここでは圧力をかけてモストを出します。かけられる圧力は重要な影響を与えます。搾汁工程において、かけられる圧力の程度によって様々なレベルのモストが得られるからです。2kg/cm2未満で得られる「プリメラ(1番目の)・イェマ」(総量の約65%)と呼ばれるモスト、4kg/cm2未満で得られる「セグンダ(2番目の)・イェマ」(約23%)というモスト、最後に、6kg/cm2以上の圧力で得られる「モスト・プレンサ(圧搾モスト)」の部分があります。
プリメラ・イェマのモストは特別な分析特性を持っていることから、通常生物学的熟成に向けられるワインに良いとされます。一方、固形部分に由来する骨格の強さを持つセグンダ・イェマのモストは、酸化熟成もしくは物理化学的熟成をする資質を持つワインになります。
モストはサン・アンドレスの日のために
いずれにせよ原産地呼称統制法によって、ブドウ100kgにつき最大70リットルまでの割合で採取されたモストが、ヘレスのワイン、シェリー造りに使用できます。より高い圧力で得られたモストは認定されないその他のワイン造り、蒸留用のワイン造り、もしくはその他の副産物生産に使うことはできます。
採取されたばかりのモストには酸化やバクテリア汚染を予防し、出来上がるワインの香りの繊細さを増すために、発酵前の準備、調整が行われます。フィルターにかけられた後、モストは酒石酸を加えることによってpHが修正されます。これにより発酵中のバクテリア汚染が妨げ、バランスの取れた、健康で、後の熟成工程に適した状態のワインが得られます。
pHを修正した後、酸化とバクテリア汚染を予防するために、モスト衛生状態によって異なりますが、60から100 mg/ℓの二酸化硫黄処理されます。添加はガスの状態で、循環配管に直接注入する方法で行います。続いてモストの「澱引き」、つまり上澄みを取ることによるの清澄が行われます。澱引きされた濁りのないモストは、最終的に発酵槽に移し替えられます
簡単に言うとアルコール発酵は、ブドウ果汁の含有糖分(基本的にぶどう糖と果糖)がアルコールに変る生物化学的な自然の工程です。この変化はある発酵因子の活動のお陰で可能になります。それが酵母です。アルコールと共に、糖の変化は、かなりの量の二酸化炭素を生み出し、同時に熱を発し、発酵中のモストの温度を上げます。
C6H12O6 2CH3CH2OH + CO2 + Q
発酵のスタートは通常「ピエ・デ・クバ(桶の足)」によって行われます。モストが澱引きで清澄され、発酵槽に入れられると、総容量の2から10%の幅で、まさに発酵中のモストが加えられます。これが発酵開始の時間を短縮すると同時に、前もって選別しておいた酵母の種類を発酵因子として使用することを可能にします。時にはピエ・デ・クバが自然発生酵母で行われることもありますが、原産地呼称地域内のボデガでは、醸造学的にも官能的にも最も良い特性を持つワインを生み出す種類を、地元の酵母から選別して使うことがますます多くなっています。
一般的に完全な発酵はふたつの段階に分けることが出来ます。第1段階は「活発な発酵」で、第2段階は「ゆっくりした発酵」です。活発な発酵が継続する時間は、モストの成分と発酵温度によって変ります。ヘレス地域では一般に、この工程は大容量(5万リットル)で、発酵中のモストの温度が、理想的な数値である22から26℃に制御できるステンレス・スチール製のタンクで行われます。このレベルの温度のもとでは酵母が快適に活動するので、糖分が完全にアルコールに変化することが保証されます。しかし、モストの醸造に特別な個性を持たせるべく、オーク製の小樽もしくはボタで発酵させる古来の方式を今も維持しているボデガが何軒かあります
1週間ほど経つとモストの糖分量はわずかになり、ゆっくりした発酵が始まります。続く何週間かで、最後の何グラムかの糖分がアルコールに変化し終わります。この間はモストを冷却する必要はありません。
秋が深まると、気温は穏やかになっていき、それによって、浮遊していた死んだ酵母やその他の固形物がゆっくり澱となって沈殿していきます。気温が下がり、澱がタンクの底に沈んでいくにつれ、発酵を終えたモストは当初の濁りを徐々に失い、どんどんきれいに透明になっていきます。
秋の終わりごろ、新しいワイン(ベースワイン)は「澱引き」の準備が出来ています。澄んだワインをタンクの底にできた澱と分離する作業です。こうして完全に辛口で、ほのかにフルーティで、酸味の少ない、淡い色のデリケートな白ワインが出来上がります。これがヘレスのワイン造りの次の工程のベースになります。
これは若いワインで、1月から3月まで、ヘレス地域の酒屋やバルで浴びるほど飲まれます。このワインは、収穫の状態によりますが、アルコール度が11から12.5度あるにもかかわらず、まだ地元ではモスト(マスト、または発酵前の果汁)と呼ばれています。
澱引きの段階で既に、このベースワインの大変特別な個性を目にすることができます。澱が沈殿する工程で、その表面に一種の膜が形成され始めています。上皮のようなもので、少しずつ成長していって、ついにはワインの表面を完全に覆いつくします。これがフロールです。
フロールはシェリーの並外れた特異性を形作る数々の要素の中で、最も特別な自然の要素であることに間違いありません。発酵酵母は糖分がアルコールに変化し終わると消滅しますが、ヘレス地域では別種の酵母がいくつか存在していて、それらはモスト中にあった糖分がなくなってしまっても活動し続けます。何世紀もかかって、自然淘汰の結果、生き伸びるために、発酵中に造られるアルコールを利用して生き続ける方法を覚えた特定の種類の酵母が登場したのは間違いないでしょう。
新しいワインのアルコール度のレベルが最高点に達しようとするとき、これらの特異な酵母は空気の酸素の助けを得て、ワインの表面に身を落ち着かせていき、ワインの中にあるアルコールやその他の成分の一部を代謝することで生き延びていきます。そしてその他の構成要素がワインに加わります。微生物であるこれらの酵母はゆっくり繁殖し、ついにはワインの表面を完全に被う膜を形成するに至ります。こうしてワインは空気と直接触れることがなくなります。そのためこの酵母の自然な膜によって完全に覆われたワインは、酸化から守られることになります。
膜は何もしないわけではなく、ワインと常に相互に作用しあっています。フロールを形成している生物、酵母は、ワインの成分のいくつかを常に消費しています。特にアルコールですが、転換されずに残った糖分、グリセリン、ワインにいくらか溶けている酸素なども消費します。またいくつかの成分を作り出しますが、なかでも際立っているのがアセトアルデヒドです。つまり、その代謝活動によってワインの成分を大きく変化させ、それが最終的な官能的特性を変えていきます。
どんな生物にもいえますが、フロールの膜の形成に関与する酵母は生きていくために一連の環境条件を必要とします。特に重要なのは、温度と湿度のレベルです。まさにフロール(花)という名前が示唆するように、膜が特に元気のよい状態で花咲いているように見えるのは春と秋で、一年のうちで理想的な気温と湿度の環境条件にある時です。
フロールが生きていくために酸素は不可欠な要素なので、喚気も必要です。そのため、フロールが発生するタンクも、後にフロールが繁殖していくボタも、密閉してはいけません。ボデガの中も空気が適度に循環している状態を確保しなければなりません。
最後に、フロールがワインに存在することができるのは、一定レベルのアルコール含有量のもとでのみです。それはワイン生産者がどのタイプのシェリーを造りたいかを決定するときに、大変重大なポイントになっています。
甘口ワイン用のブドウの醸造はこれまでの辛口シェリー造りとは異なり、重要な特異性を持っています。
ペドロ・ヒメネスというワインは過熟した同じ名前のブドウからだけ造られます。その収穫は、畑でボーメ度16°以上(モスト1リットル中の糖分が約300g)という、糖分がかなり高い凝縮度に達したときに行われます。ブドウは収穫されると干しブドウ状にするために、「ソレオ」を行うために特別に作られたパセラという場所に預けられます。この工程の間でかなりの水分が失われ、そのために含有糖分が凝縮(モスト1リットル中450-500g)します。この糖分の増加と並行して、レーズン化したブドウの化学的、物理的、官能的性質の変化が現れます。色、濃度、ねばり、ぬめりが増し、このブドウとこれからできるペドロ・ヒメネスというワインに特有の香りと風味が表れてきます。
ソレオは収穫されたブドウの房を、太陽のもと、様々な形や材質のござの上に広げて行われます。伝統的には「レドール」というエスパルト草でできた丸いござを使います。ブドウの房は手作業で注意深く扱われます。ブドウの全ての粒に平均して太陽が当るように、毎日房をひっくり返します。この作業中に不健全なものは取り除かれます。比較的海から近い地域では、夜露の湿気を防ぐために夜間はブドウの房にカバーをかけます。何日かして、気候条件(気温と相対湿度)によって7日から15日ですが、ブドウが最高の状態に至ると、集めて圧搾場に持って行き搾汁します。
干しブドウ状になっているという条件から、圧搾作業は、収穫したての時より難しくなります。使用されるプレス機は垂直型で、糖分やその他の成分を多く含むため大変濃く粘り気があるモストのドレイン、つまり液体の流出をしやすくするために、レドールによって何層にも分けてプレス機に入れられます。エスパルト草のレドールで形作られた構造がプレス機からモストを出しやすくします。
タンクに集められたモストは特別な性質を持っているため、続く工程にも条件が付きます。糖分の濃度が高いので、自然発生的発酵になり、それは大変ゆっくり始まります。そのうえ、モストの発酵活動を止めるために、アルコール度10度近くのレベルまでグレープ・アルコールを添加します。こうして安定したワインは、秋冬の何か月かの間に清澄され、澱引きされ、熟成に備えてアルコール度15-17度まで補足の酒精強化が行われます。それからそのワインは、アメリカンオークの樽に入れられ、伝統的なソレラ、クリアデラシステムを使います。
モスカテルのワインを造る際には、熟成度の高い状態で収穫された「モスカテル・デ・アレハンドリア(マスカット・オブ・アレキサンドリア)」種のブドウだけが使われます。この場合も同じく、ソレオを行って、「モスカテル・パサ」として知られるワインを造ることができます。モスカテル・パサの醸造工程はペドロ・ヒメネスに使われる工程と大変似ています。ただ、基本的にモスカテル・デ・アレハンドリア種の実は、ペドロ・ヒメネス種の実より大粒で、ソレオによる乾燥度は低くなっています。その上、モスカテル種は海に近い砂地によくあり、ソレオは多くの場合砂の「パセラ」の上で行われます。