ヘレス地域はヨーロッパの最も南にあるワイン産地のひとつで、緯度が低いため(ヘレス市は北緯36度に位置)暑い気候です。この地域は夏は乾燥して気温が高いため、高い蒸発蒸散作用が起こります。しかし大西洋に近いので、特に夜間は緩和され、湿気が増してきます。ブドウの樹の生育期に当たる春と夏には、ポニエンテ、レバンテと呼ばれる主要な風が吹きます。ポニエンテは西より吹き、涼しく、湿気を多く含む(湿度90%に至る)一方、レバンテは南東より吹き、温度が高く、乾燥しています(湿度30%程度)。年間平均気温は17.3℃、冬は温暖で氷が張ることはめったにありません。夏は大変暑く、気温はよく40℃を越します。平均年間日照時間は大変長く、3,000から3,200時間と、恵まれています。
降水量は比較的多く、年間600ミリで、特に秋と冬に観測されます。特別な年を除けば、この降水量はブドウの樹が生長するには十分です。それは傍にある大西洋のおかげでかなりの夜露がおりることによっても補われているからです。
ヘレス地域内全体の気候が単一ではないということを言及しておかなければなりません。マルコ・デ・ヘレスとして知られるへレスの生産地域のサブゾーンによって、村によって、それを構成する「パゴ」によって違いは大体明らかで、特にどれぐらい内陸に位置しているかによって違いがあります。
ヘレス地域にはなだらかな起伏の地平線が広がり、傾斜度10-15%のゆるやかな丘や山があり、それが乾燥期にはまばゆいばかりに白い、石灰質の土で被われています。これが「アルバリサ」です。この柔らかい泥灰土は丘の上部の表面に表れ、ヘレスのブドウ畑特有の風景を作り出しています。アルバリサは炭酸カルシウム(含有量が40%に至ることもある)と粘土、漸新世の期間にこの地域を占めていた海にいた珪藻と放散虫の殻から成る二酸化珪素が豊かです。石灰分と二酸化珪素分の割合が多い、最も上質のアルバリサがヘレス地域の、最も厳選された人気の高いワインを生み出します。
ブドウ栽培の観点からいって最も重要な特性は、冬に降る雨を溜めておいて、乾燥した何ヶ月もの間、ブドウの樹に与えるために水分を保持する優れた力です。多孔構造のため、アルバリサは雨の季節にスポンジのように開き、多量の水分を吸収します。後に暑さがやってくると、土壌の表面を被う部分は固まり、この地域の高い光度によって起こる蒸発蒸散を防ぎます。
アルバリサは耕すのが楽で、水分を保持する力が強いことから、非常によく根を張り込ませることができます。深さ6メートル、長さ12メートルにもわたってアルバリサの土壌に張った根もあります。
この地域には割合は少ないものの、ヘレスのワイン、シェリーの生産のために使用される、「バロ」と「アレナ」という他の種類の土壌もあります。バロは丘の裾野部分や低地に多くあります。一方アレナは海岸地域に典型的な土壌です。
伝統的にヘレスのぶどう栽培者は生産地域を「パゴ」に分けています。パゴとは、同種の土壌と気候を持ち、自然にできた独自の地形によって限定されたぶどう畑の小さな部分のひとつひとつのことです。有名なパゴには、カラスカル、マチャルヌード、アニナ、バルバイナなどがあります。地域全体では様々なパゴが70以上もあります。
ヘレスのワイン、シェリーを造るにあたって、原産地呼称統制委員会の統制法には次のビニフェラ種のブドウ品種が記してあります。パロミノ、ペドロ・ヒメネス、モスカテルです。この3つは白ブドウ品種です。
ヘレス地域に伝統的な前記の3つの品種は、ワインの醸造に適した品質のブドウを産する「ビティス・ビニフェラ」種に属します。この地域では常にパロミノという名のブドウが傑出していましたが、ペドロ・ヒメネス、マントゥオ、アルビーリョ、カニョカソ、ペルーノ、モスカテルといった、その他のブドウもあり、いずれも独自の根で栽培されていました。しかし、ヨーロッパの他の多くの地域と同じく、1984年、初めてヘレスに「フィロキセラ」(Daktulosphaira vitifolii)という名の虫が現れました。これはブドウ栽培史上最悪の災害で、ブドウ樹の根を襲って、ヨーロッパのほとんどのブドウ畑を壊滅させました。唯一の解決法はフィロキセラに耐えうる根を持つアメリカ品種のブドウ樹(台木)を植えて、それにその地域に従来からあったたブドウ品種を接ぐことでした。こうして、それ以来ずっと、樹は地下にあるアメリカの血をひく台木の根の部分と、地上にあって、実をつけるビニフェラ部分との組み合わせになっています。ふたつの部分は接木点で結ばれています。
パロミノ種は何世紀も前から最も伝統的な品種とされ、現在ではヘレス地域の紛れもない女王的存在になっています。アルバリサ土壌、この地域の気候、栽培者が培ってきた技術によって、パロミノ種はヘレス独特のワインを得るために代え難い重要な要素になりました。
パロミノ種には「リスタン」をはじめ、多くの同意語があります。上裂刻が開いた大きく丸い葉で、色は濃い緑、葉柄裂刻は開き方の少ないV字型です。葉の裏面は綿状です。新梢は適度に広がります。房は長く円筒円錐状、実の密度は中の上ぐらい、実の粒は球形で中ぐらいの大きさで、皮が薄く、色は黄色がかった緑です。実は果汁が多く壊れやすく、果汁は色が薄く甘く美味です。
「パロミノ・フィノ」という亜種はこの地域では最も多い品種で、3月下旬の2週間に萌芽し、9月の初めに熟成します。収量は1ヘクタール当り80ヘクトリットル程度で、通常ボーメ度は11度程度に達し、酸度は低いです。この地域には大変よく適応し、正しく栽培されれば、虫などにもあまり害を受けません。実の品質は素晴らしく、畑での作業に手がかからないので、ワインの生産者にとってもぶどう栽培者にとっても文句のない品種になっています。
「パロミノ・デ・ヘレス」は、収量がいくらか少なく、糖度と酸度がわずかに高い亜種で、重要性ははるかに劣ります。
ペドロ・ヒメネス種はアンダルシアの他所の地域と同じく、ヘレス地域でも大変伝統的なもうひとつの品種です。同意語の主なものはアラミスとペドロ・ヒメンです。含有糖度が高く(平均12.8ボーメ度)、酸度もより高く、素晴らしい品質の甘口ワインを造り出します。一般的、実の糖分を凝縮するため、醸造前に「ソレオ」を行います。皮が薄いので、この工程に適しています。
モスカテル種は同名のワインを造るためにヘレス地域で使われる品種です。この地域で一般的に植えられているモスカテルは「モスカテル・デ・チピオナ」と呼ばれます。同意語にはモスカテル・デ・アレハンドリア、モスカテル・ゴルド、モスカテル・デ・エスパーニャなどがあります。
世界中の多くのワイン産地に広まっていますが、アフリカが起源の品種で、はるか昔、紀元後初めの頃の年代にコルメラによって言及されています。ヘレス地域では一般的に天日に干したものを使い、高い品質の同名の名前を持つ、特別の甘口ワインにされます。海に近いところにあるブドウ畑の方が良くできます。
自然の要因、使用する品種とともに、ブドウ畑での栽培方法は、樹1本の収量にも、実の特徴にも決定的な効果を与えます。歴史的にヘレスにおけるブドウ栽培は、その大変独特なワインの品質を訴求する志向が強く、使える技術は常に取り入れて、独特な発展を遂げてきました。ヘレス地域のブドウ栽培者は人と植物と土壌の関係の本来の姿を形作っています。
ブドウ畑を作る地域が決まると、夏に「アゴスタド」と呼ばれる、畑を深く掘り起こす作業をして、植え付けを行う準備をします。畑は60センチほどの深さまで耕して、土に適度に空気を入れ、同時に底に肥料を施します。アルバリサは有機質に乏しいからです。
その後土地をならし、12月に台木を植える具体的な点を印付けします。「植え付け枠」によって植えられる樹と樹の間の距離が示されます。この地域の伝統的な植え付け法は「マルコ・レアル」(1.50 x 1.50 mの寸法)と呼ばれるものでした。しかし現在は畑の作業の機械化が進んだため、1.15x 2.30mの寸法の長方形の枠が取り入れられています。畑ではブドウの樹の列、「リニョス」が南北方角になるように植えられます。一日中、できる限りの日照を受けさせるためです。また土地の傾斜も考慮しなければなりません。ヘレス地域のブドウ畑の1ヘクタール当りの植え付け密度は3,600から4,200本です。
フィロキセラに耐性のある台木は、冬に根づいた状態で植えられます。こうすることによって雨の季節を利用でき、それが後に樹の根の成長に役立ちます。
明らかにフィロキセラに耐性があるというだけでなく、ヘレスで使われる台木はその他の特性も持っていなければなりません。特に、アルバリサが高い比率で含む石灰分にも強くなければなりません。
春の間、台木が適度に生育したら、8月と9月の間にビニフェラ種(一般にパロミノ種)を接ぎます。この接木には「エスクデテ(小型の盾の意味)」と呼ばれるタイプの「芽」を使います。地表面下の位置で、パロミノの芽を台木の側面にはめ込みます。芽接ぎ部、つまり芽がはめ込まれた部分は「カフエラ」と呼ばれます。接木が終わったら、その部分は、芽を出して、ラフィアヤシの紐で縛り、接木した部分を保護するために周囲を土で覆います(アポルカ)。
次の春、接木した部分を表に出します。この時から接がれた芽が芽吹き始め、樹の将来の地上の部分になっていきます。
何らかの理由で芽が芽吹かなかった場合、次の冬にあらたに接木をします。今度は「エスピガ(穂)」法です。既に台木の幹は前より太くなっているので、横に切って、そこに尖った棒状の梢をはめ込んでラフィアヤシの紐で適度に縛ることが出来ます。
続く3年間、樹の生長を方向付けるための剪定が行われます。目的は樹を正しく生長させ、生産体制に入ったとき、その樹に対して行われる様々な作業がしやすくなるよう、適度な高さに至らせることです。理想的な高さ(60cmほど)に至る4年目から、樹は主要なふたつの腕木に分けられ、それらが生産用に毎年剪定されます。ブドウ栽培の作業、特に収穫ですが、その機械化が進み、それを受け入れる方式が広まり、一般的な傾向として、樹の高さをこの地域の伝統的なものより高くしています。
最初の頃の年に生産されたブドウは品質が良くないので、そのほとんどが酒精強化用のアルコール作りに使われます。
ブドウ樹が生長すると(4年目から)樹の収量を調整するため、年ごとに生産用の剪定を行わなければなりません。剪定は毎年樹が休眠している冬に行われ、決まった様式に梢や枝などを切り、形を作るために、必要な芽と梢と腕木を残します。
この地域では樹は約30年の寿命があり、剪定は樹の1年の生育と活力に大きな影響力を持っています。剪定を行うときに樹に残す「カルガ」(芽の数)によって、収量の点でも特性の点でも満足のいく状態での生産性は変ってきます。そのため剪定の仕方はブドウ栽培の実務全体のなかで重要な要素です。ヘレスでは「バラ・イ・プルガール(枝と親指)」もしくはヘレサナ(ヘレス式)と呼ばれる、この原産地呼称に伝統的かつ独特な、樹の幹から2本の腕木もしくは「ブロカド」を形作る剪定が長年行われてきています。これらの腕木には毎年交代で、少なくとも8つの芽を付けた1本のバラとひとつかふたつの芽を付けた1本のプルガールを残します。バラ(結果母枝)にはこの年度の収穫が成る一方、プルガールは1本の芽を出し、それが翌年のバラになります。その年実を成らせたバラの剪定では、次の年のプルガールを残します。つまり、それぞれの腕木から、一年はバラ、次の年はプルガール、というように、交互に出てくることになります。
樹の剪定の仕方は、樹液の循環を楽にして、樹の生育と加齢に有利に働くよう、「デ・ベルデ(緑の)」と「デ・セコ(乾いた)」と呼ばれる経路を腕木に確保できるよう、あらかじめ決まった順番で行われます。セコの経路は毎年行われる剪定で切られる側で、ベルデの経路は剪定による切り傷の跡がない側です。樹をより良い形に作り、切り戻しで余計な傷跡や枯れ込みを作ることのないように、春に補助的な手当て、ここでは「カストラス」と呼ばれる敵梢を行います。これは樹にとって本当に有益な新梢と争う可能性のある不要な新梢を早いうちに取り除くことです。
リニョに沿って植えられたブドウの樹の列は、今日では2本かそれ以上の針金を使った垣根型に仕立てられ、実の成るバラが針金に誘引され、それに沿って生長します。バラは、質の高い実をつけるにあたって、樹が必要な生理学的工程を経るために欠かせない日照を葉が受けられるよう、太陽がじゅうぶん当るようになっていなければなりません。
はるか昔から続く畑の耕作作業で、ブドウ栽培者が求めるのは次のふたつです。冬は出来る限り全ての雨水を留めて、土に吸収させること、春と夏は、強烈な暑さのために土壌にとって重要な水分が不足しないように、湿気を保持することです。
冬に水分を蓄えるために、アルバリサの丘ではこの地域独特の、「アセルピア」もしくは「アルンブラ」といわれる作業を行います。収穫後に行われるもので、畑の通路に畝を形作り、長方形の水溜りを作って、秋冬の雨水が丘の斜面を流れ落ちてなくなってしまわないよう、そこに留めて保持します。春になるとこのアセルピアは崩され、土壌の表面は土が細かく砕かれ、平坦に耕されます。
その後作業の目的は、草をとり除くことと、夏の高い気温で起こる蒸発を防いで土壌の水分を保つことになります。